■ゲインズビルの日本人 ショートインタビュー第一回
ゲインズビル在住、フロリダ大学で活躍している人にインタビューをするという企画。その名も「ゲインズビルの日本人 ショートインタビュー」。
本企画第一回目のゲストは芦澤哲夫先生。脳疾患の研究での第一人者であり、現在フロリダ大学McKnight Brain InstituteのExective Director、Department of NeurologyでのChairを兼任されています。
非常に多忙な中お時間をとっていただき、面白いお話を伺うことが出来ました。ぜひご覧ください!


Q、芦澤先生のお仕事について、まずお伺いしてもよろしいでしょうか?


研究の専門は脳細胞の疾患による病理です。小脳失調症の多くやハンチントン病(*1)は遺伝子異常による神経系の疾患(*2)によるものです。これらの病気は現在難病に指定されていて、分かっていないことも多いです。そんな病気に対して1つでも治す糸口になればと願っています。
さらに今は臨床と研究に加えて、管理職のほうも忙しくなってきています。


Q、脳の神経に関するご研究をされているということですが、その研究に至った経緯などをお伺いしてもよろしいでしょうか?


私はもともと、理学部に入りたかったんですね。ロジカルなものが好きだったんです。 高校のときには大学の研究室に入り浸ったりもして、例えばメンデルの法則(*3)みたいな遺伝学には当時から興味がありました。 しかし、僕は慶應義塾高校出身なのですけれど、当時理学部が慶応大学にはなかったんです。
研究をするために他の大学に進学することも考えたのですが、医学部でも研究は出来るということや、成績も足りなかったこともあり(笑)、慶応大学の医学部に進学しました。
現在の研究は、優性遺伝の染色体異常に関することも中心議題の1つで、そういった意味では興味のある分野をずっと追いかけているといえるかもしれませんね。


Q、学生の頃からの興味が長じて研究者になられたんですね。では先生はどういった学生生活を送られてきたのですか?


僕が大学生の頃は丁度学生運動が盛んな時でした。そんななかで、僕はスキー部などに入って楽しんでいました。学生運動にはあまり関心が強くなかったのですが、その分高校の時の仲間といろんな議論をすることを楽しんでいました。
その仲間は医学部だけでなく、建築の勉強をしている人もいたし、専門は多岐に渡っているグループでした。初めはサミュエルソンの経済の本(*4)を買って、その勉強会から始まっていったのです。そのうちに議題も多岐にわたり、またみんなの切り口も多様で楽しかったですね。たとえば「人口脳は将来実現するか?」という話になったことがありました。そのとき工学部の友達は「技術的には可能になっているはずだ」というのですが、商学部や経済学部の友達は「お金がかかりすぎて現実的でない」といって、法学部の友達は「人口脳という概念が許されるか?」という切り口で話す。いろんな友だちと絡んだのは面白かったな。
逆に医学部での学年が進むに連れ、専門が強くなってしまい、授業は全部医学になってしまう。人間の体の事以外教えてくれなくなってしまうんです。他の勉強をする機会が少なくなってしまったことを残念に感じることもありました。
そののちに横須賀の米軍基地を経て、テキサス州のベーラー医科大学でレジデンスを終え、その後にテキサス大学に赴任しました。フロリダ大学には2009年に移ってきました。


Q、いろんな価値観の友達との交流が視野を広めたということで、それは先生にとって重要だったということですね。


そうですね。
それは実はフロリダ大学に移った理由の1つでもあるのです。前職でテキサス大学の病院で働いていたのですが、その時からやはり分野を超えた交流は楽しいと思っていました。出来れば物理、化学、工学、人類学、さらには文化系のひとたちにも近い環境が望ましい。そういった意味でフロリダ大学は恵まれていて、こちらに来ることを決めました。


Q、確かにゲインズビルは様々な専門の学生や先生が近くにいて、そういうところはゲインズビルの魅力と言っていいですよね?


今は時代的に専門バカにならざるをえないような社会的環境があると思います。でも様々な人と話して視野を広げることは、重要だし、なにより楽しいです。 そういった意味ではゲインズビルは最高ですよ!


Q、では最後に一言だけ頂いてよろしいでしょうか?


人類はコミュニケーションを頼りに文明を築いてきました。何をするにも人と人とのつながりを大事にしていきたいとおもっています。


Q、ありがとうございました

文責、インタビュアー やすたか 2012年12月

STUDY!!
(*1)ハンチントン病:大脳中心部につながる神経細胞の異常により引き起こされる常染色体優性遺伝病。特定疾患に指定されている難病で、解明が待たれている。
(*2)遺伝子異常による疾患:遺伝子(DNAの2重螺旋構造がさらにまいた構造になっている染色体のことで、生物の遺伝情報をになうと考えられている)に異常があるとき、疾患として現れることがある。ハンチントン病を含めたこれらの疾患のうちの幾つかは、優性遺伝の疾患とされている。
(*3)メンデルの法則:えんどう豆を使った実験により、遺伝学の基礎を確立させた法則。1856年にメンデルによって発表された。
(*4)サミュエルソン:ポール・サミュエルソン。経済学の新古典派総合の理論を確立させた。

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